許されざる者

「許されざる者」を、「ウルヴァリン」鑑賞と同日はしごで、T-Joy東広島にて観てきました。映画のはしごというものは映画修行にとっては、待ち時間の節約という点でも必須です。わたしの少年時代は二本立ては当たり前。少し、古いものなら、3本立てということもありました。昼前に映画館に入ったら、もう夕暮れ時だったということも今ではよい思い出です。

さてこの作品は、最近注目の李監督の最新作。前々作となる「フラガール」はもう映画として、物語といい、舞台といい、役者といい、音楽といい、すべてが完璧であり、わたしの生涯の邦画ベスト5に入ると言っていい作品です。私見ですが、この「フラガール」の7年前のヒットにより、現在まで続く邦画復活&隆盛の時代が始まったのでは?と考えているほどです。前作「悪人」も大傑作とまではいかないものの、映画的には満足のいく作品(満足できる作品というのはわたしの場合、鑑賞3作にひとつぐらいです)でした。

そんな李監督の作品ですから、当然期待大です。近年、頭角を現した新進気鋭の監督が国際的俳優・渡辺謙をどう使いこなすか?等々興味深い点が満載です。

観終わってまず感じたのは、「日本にも立派な西部劇が生まれたな」というものでした。無法者、賞金稼ぎ、理不尽な官吏、虐げられる町人、等々。確かに明治初期の開拓時代の北海道なら、そんな状況はあったろうし、アメリカ映画の焼き直しとはいえ、時代状況にフィットしており、面白かったです。かつて黒沢監督の名作「7人の侍」などもその系譜といえますが、西部劇としてみたら、今作のほうが堂に入ってるような気がします。

かつて黒沢監督の西部劇的名作「7人の侍」がアメリカで「荒野の7人」に焼直され、今回イーストウッド監督の名作「許されざる者」を日本で焼き直したことは、時代を超えた意趣返しという感じがして、興味深かったです。

この作品は柄が大きいので、切り取り口はいろいろありますが、2、3あげますね。

実は意外なのですが、もっとも印象に残ったのは、業を背負った主人公を演じた渡辺謙より、アイヌの少年・五郎を演じた柳楽優弥くんの頑張りでした。柄本明や佐藤浩市(最近の彼は俳優として素晴らしくキャラが立ってますね)といった大物に囲まれた若干23歳。和人である大人たちに付き従う、和人とアイヌの混血というコンプレックスを抱える役柄。難しい役柄でしたが、こわ~い和人の大人相手に見栄を張る虚栄心、驚愕の表情、畏怖に満ちたおびえた立ち振る舞いなどなど、状況に応じて見せる複雑で不安定な表情や立ち振る舞いがこの映画に深みを加えていました。将来が楽しみな若手俳優です。

 

そして本家本元、この映画の主題でもある、十兵衛の生き様。深い業を背負って空虚に生きる男。心が空であるぶん、剣豪としてはめっぽう強い。

 

空虚なこころが抱える空。

 

空と空虚。受ける印象は違うものの、その実態はほぼ同じ。生きる目的も見失い、空(空虚)の人生を生きる男。故に超越的な強さを身に着けてしまった、業の深い男。湧き出る言葉も少なく、自分の想いすらもうつろなこの空しい男はこの後にいったいどこへ向かうのか!?

謙さんはそんな空虚な男を、言葉ではなく背中で演じてました。かつて視線と沈黙の間のなかで思いを雄弁に演じた高倉健、洋服の裾のしわまで意味ありげに華麗に演じていた原節子といった大俳優の領域にこの人はすでに達したのだなとしみじみ思ったりしました。

 

また本家ハリウッドがびっくりするような豪勢なセットは立派で、邦画としてはかなり奮発したと思いました。成功作を連続させている監督の勢いそのままに、セットにかなり予算を投入したのだと想像できる、素晴らしい開拓村のセットでした。映画のなかで、大立ち回りののちの、燃え盛る業火のなか、街ごとそれらが燃え落ちていくシーンは、お~もったいな~とか思いながらも、この映画最大の見せ場で、やはり劇場で観てよかったといえる水準でした。

なんやかんやいっても、さまざまな角度からの見方ができる、おおきな作品であり、みんなで観て、いろいろ語りたいな~と思わせる作品でしたよ。なので、みなさんもぜひに。

 

P.S.この作品は手塚治虫先生のかつての大河漫画「シュマリ」に時代設定、状況設定、人物の構成および性格設定が相似(もちろん「シュマリ」のほうが話自体が長大で、物語構成も複雑なのですが、エッセンスに共通するものを感じてしまうのです)していると思うのですが、偶然でしょうか?偉大な手塚作品へのオマージュの意味があるのでしょうか?それとも物語の黄金律に沿う結果の必然的な相似でしょうか?残念ながら、「シュマリ」という作品自体を知っている人がわたしの周囲には現在おらず、いつか出会えるであろう、両作品を知る誰かとこの相似性を摘みにお酒でも飲みながら団欒したいものです。

 

 

 

 

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コメント: 2
  • #1

    シネ丸 (月曜日, 07 10月 2013 09:58)

     この映画の批評はたくさんみていますが「シュマリ」を引用された先生の博識には改めて驚愕! シネ丸は題名こそ知っていますが、お酒がご一緒出来るほどの知識も無くあいかわらずの不勉強を痛感してしまいます。
     シネ丸も「フラガール」が大好きなので、その監督の新作というだけで肩を持ってみてしまいました。骨太な作品で見事な出来栄えと思うんですけど
    興業成績は今一歩! 今邦画には何が求められているのでしょうか?

  • #2

    narata (日曜日, 13 10月 2013 04:45)

    先生の仰る通り、素敵な映画でした!!感動でした♪…