バードマン

今年のアカデミー賞作品賞(アカデミーの最高賞です)を受賞した本作をさっそく広島市内サロンシネマにて、産業医研修を受ける用事のついでに鑑賞してきました。


アカデミー賞作品(通称オスカー)にはずれなしということを誰が言ったか知りませんが、わたしは観終わったあと正直に言うと「うーん、この作品がオスカーの作品賞をとるとは時代も変わったな」と感じました。本作はバードマン(パーマンの上司ではありません。おそらくバットマンの著作権問題を回避した仮称で要はバットマンです)をかつて演じて大スターになったもののその後20年ヒット作に恵まれず、鳴かず飛ばずなさえない老境にさしかかりつつある俳優リーガンがもう一花咲かせようと、若いころからの夢であった演劇のメッカ・ブロードウェイで脚本演出主演をひとりでこなす演劇に打って出て、栄光への復帰を図ろうとする男の物語です。


その間にいろいろ起こるさまざまな人間トラブルがカメラの長まわしによって迫力満点に展開されます。そのうちにリーガンは内なるバードマンの声を幻聴として感じ、それにあがないながら、演劇を進めるものの、幻聴の世界どころか幻覚のようにバードマンが実際に現れて、くだらない現実にサヨナラしてまたおいらの世界においでよとささやきだし、主人公のこころのなかで現実と幻覚が交錯していき、衝撃(笑撃?)のラストシーンへなだれ込んでいきます。


しぶい、葛藤の深い人生の深い闇のなかであえぐ魂の彷徨を描く佳作としてはわたしも絶賛するのですが、物語としては老境に入った俳優の一発逆転ものであり、厳しく見ればありふれたテーマでもあり、これでオスカーを獲るとは??ややびっくりです。こうしたヒーローパロディものなら、2010年に公開された「キック・アス」のほうが、痛快度も含蓄も上という気がしました。確かに実際にバットマンを演じた俳優マイケル・キートンを本作でも主役に起用したり、俳優の演技の迫力や長尺なカメラワークなど観るべきものも多々ありますが、あまりにも通好みでないか?と感じたりました。


この作品を高く評価する方たちというのは、人生の後半に差しかかり、時代に取り残される肉体や精神の衰えを感じながらなんとかもう一花を咲かせたいという主人公の心情が実感としてわかる世代の方か、映画や演劇というショウビジネスの世界をパロディとして皮肉っていることが理解でき、たくさんの映画や演劇を観た経験をもち本作の映像や演技のすごさが了解できる映画通という方たちのような気がしました。なのでアカデミー賞審査員の方たちには文句なしに受けるでしょうし、オスカーを獲ったのもうなずけますが、かつてのオスカーはそうした通のみがわかる作品ではなく、誰が観ても文句なく面白く考えさせられる作品が多かったと思うのですが、近年の受賞作「アルゴ」「アーティスト」(これらも傑作なのですが、オスカーを獲るとは?という印象の作品でした)といい本作といい、オスカーはいまや通の好む賞になったということをわたしなどは決定的に認識させられた作品となりました。


まあそれでも、どうのこうの言ってオスカーを獲るだけあって、一面的な見方を許さない、なかなか難解で奥の深い作品でいろいろな見方があり、わたしのこの感想も所詮はわたしの感性のフィルターを通したそれであり、この作品の一面しか表現できていないことはいうまでもありません。

ここまで読まれて本作に興味をもたれた方はおそらく映画好きだと思われますので、ぜひ映画館に足を運んでこの作品にチャレンジしてくださいね。

 

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コメント: 2
  • #1

    シネ丸 (火曜日, 12 5月 2015 17:46)

     アカデミー作品賞のわりに評価がいまいちだったのであまり期待せずに鑑賞しました。
    先生のご指摘のように映画好きなシネ丸にとっては想像していたより興味深い作品でしたが,映画史に残るかどうかとなるとかなり疑問ですよね。 やはり作品賞は「アメリカンスナイパー」でしょう。 でも去年はアメリカの過去の闇を描いた「それでも夜は明ける」が受賞し,今年は現代の闇を描いた「アメリカン・スナイパー」では少し無理があったかもしれませんね。 

  • #2

    tomiyasu motoharu (水曜日, 17 2月 2016 10:51)

    クリントイーストウッドのバードのリメイクぐらいにおもっていたんですが、ぜんぜんちがうのですね。おとろえを肯定的にうけいれられるようになりたいとおもいます。年のせいにできることが、特権でありますが、これをふりまわしたくなく、年がいのなさというのもいいようにおもいます。これこそ年を肯定的にうけいれていることになるのではないでしょうか。ひとはな、ふたはな咲かせるのは女性のほうが多いですかね。