海よりもまだ深く

本作を6月上旬、日本精神神経学会で千葉幕張を訪れた夜に東京在住の竹馬の友とともに丸の内ピカデリーにて鑑賞してきました。

 

是枝監督はここ数年、「歩いても歩いても」「そして父になる」「海街diary」など一連の作品にも言えることですが、家族というテーマにこだわり続けており、本作もその延長線上にあります。

 

阿部寛さんと樹木希林さんの親子役は「歩いても歩いても」でも表現された配役であり、あの作品はこころに後々まで残る佳作だっただけに期待の作品。

 

最近、なぜかよくありがちな作家崩れの、阿部ちゃん演ずる、だめ男。次元や程度は違っても男なら誰もがシンクロする男性像ではないでしょうか?

 

そのダメ男が、元妻への未練、子供への未練、自分のなりたかったものへの未練、母親にしたかったことへの未練を断ち切れずに悶悶と過ごす日々のなかで偶然に訪れた、元妻、子供、母親、自分との再会の夜。

 

そんな4人が一夜の台風という天の配剤によって、男の育った狭い団地に閉じ込められながら、朝まで濃密な時間を過ごしながら、4人が4人ともさまざまな未練とのお別れをし、新たなスタートラインにたつというたった一夜を詳細に抒情的に描く佳作でした。

 

ラストに残る爽やかな余韻と抒情を少なく穏やかな言葉できりとるハナレグミのせつない唄声。

 

これがまたなかなかいいんです。ラストのこの歌を聴きながら、この映画を観たものすべてが4人それぞれの境遇を自分の人生にそれなりに重ね合わせて、いまの自分の人生の立ち位置を考えてしまう…。

 

終演後、この映画の醍醐味はこの余韻にあるなかな~という感慨を抱きながら、夜の更けていくのを感じつつ、予約してあった銀座「俺のフレンチ」での宴に友と歩いて向かい、おいしい料理の数々に舌鼓を打たせてもらいました。