ドリーム

 

秋が深まっていく、10月のとある木曜日、久々に広島市内の八丁座にて本作を観てきました。

 

1960年代、ソ連に有人宇宙飛行で先を越されたNASA(アメリカ航空宇宙局)。その逆境を挽回するためのマーキュリー計画(アポロ計画に繋がっていくプロジェクトです)において、特別な数学的才能を持ち、露骨な人種差別を受けながらも白人中心の組織NASAにおいて、その天才的能力を発揮し、その後黒人かつ女性が活躍できるという道をつけた三人の英雄的女性の奮闘&成功物語です。

 

こう書いてしまうとあっという間に終わるのですが、それらを実際に三人の女性たちの苦難や努力、才能を見事な映像で迫力たっぷりに見せられると、うーーん、いいものを見せていただきました・・・という気分でこころが満たされるから不思議です。

 

本作を観て一番思ったのは、ケビンコスナー演ずるNASAのハリソン本部長は、ソ連に遅れをとっているアメリカの窮地を挽回するために、天才的な計算能力のある彼女らを起用せざるを得ない状況に追い込まれ、彼女らの抜擢を推進していくのですが、もしソ連の先行的躍進がなかったら、あの時代1960年初頭に、彼女らの抜擢がアメリカ合衆国において実現したのだろうか?という素朴な疑問です。 キング牧師やマルコムXが暗殺されたあの時代のアメリカにおいてはまだ人種差別は激しく、リベラルであるはずのアメリカ科学の総本山NASAの本館でさえまだ白人用トイレしかなかった時代なのですから・・。

 

またタイトルですが、なぜか黒人の成功ストーリーものには「ドリーム」という言葉が入りますよね。あの史上最強といえるかもしれない60年代の黒人ガールズグループ、シュープリームスをモデルにした傑作映画「ドリームガールズ」もそうでした。ふと思ったのは、キング牧師のあの有名な演説のなかのセリフ「I Have A Dream.」です。アメリカはいまもすべての人種差別を撤廃するというキング牧師の理想を追っており、それを各所で実現させた物語には象徴的なワードとして、刻印として、「ドリーム」が入っているのでは・・なんて思ったりしました。

 

そして本作はアメリカでは「スターウォーズ」にも負けない大ヒット(日本では残念ながら限られた都市の映画館でしか上映されず、ヒットとは縁遠い状態でした)となったそうですが、現実のアメリカではいまトランプ大統領という、露骨な白人至上主義者が実権を握っており、その現実に対する静かなレジスタンスとしての大ヒット現象なのかな?と例によって想像力たくましく妄想しながら、よい映画を観終えたあとの快いこころの風を感じながら、帰途に就きました。