バリー・シール アメリカをはめた男

本作を晩秋の夜更けにT-JOY東広島にて鑑賞してきました。トム・クルーズ演ずる、アメリカに実際に存在し億万長者となり儚くも命を落とした破天荒な人物の実録ものです。

 

天才的飛行機躁術を身に着け、CIAの特殊任務を請け負いながら、裏では中米の麻薬王の運び屋もやり、自宅の豪邸では札束が邪魔になるぐらいのお金を稼ぎまくり、最後は麻薬王たちを軽い気持ちで裏切り、彼らの怒りを買い名もない街で人知れず散った楽しくも浮き沈みの激しい人生を力いっぱいに駆け抜けたおっさんの物語であり、最後はややしんみりとなるものの、基本的には痛快で楽しい作品です。

 

なんと言っても本作の醍醐味は飛行シーンであり、ジャングルでの離陸シーンや軍が警備する国境の空を軽々と超えていったり、麻薬捜査航空隊から逃げるために滑走路もない街の道路への着陸シーンなどやりたい放題の映像がてんこ盛りであり、これらの映像の迫力はやはり楽しく壮観です。飛行中の操縦席でウハウハの楽しいこともしています。そんなむちゃくちゃで痛快な男をトップガンで飛行シーンをならしたトムクルーズが演ずるのだからいう事なしです。面白くないわけがありません。

 

本作を観ている最中なにかの感触に似ているなと感じていたのですが、あのジブリの名作アニメ「紅の豚」の現代版のような感触でした。両者ともに豪放磊落で破天荒で、国家に縛られない空を駆ける男の物語なのですが、本作の物語は実話なのだから文句なく痛快です。ありえなさそうで実際にあったアメリカ大陸飛行人生奇譚です。そしてこんな話は当時建国200周年を祝ったばかりの、まだ若かったアメリカという国で、しかも70年代から80年代でなければ絶対に起こりえない内容であり、個人の破天荒な力でなんとかなるような空気感が世界中に漂い、何事も過剰で弾けていてはちゃめちゃで飛び跳ねていた懐かしい時代(わたしだって、この時代は子供でしたのであくまでも印象ですよ)を思い出しました。

 

本作を観ていて、ふと気づいたのはいまのアメリカ大統領トランプ氏は実は70年代から80年代的人間なのではないだろうかということです。そんなアメリカ70年代的な破天荒でむちゃで原始的思考と行動をする男がいて、空を駆ける代わりに、土地をころがし社会の上層に這い上がってきた。そんな男がいまや大統領になり超大国アメリカを牛耳っていて、それはそれで世界の平和や秩序の維持を脅かしている。そんな彼に似た男がかつてアメリカに実在しており、そのアクロバティックな人生は個人のレベルでは痛快だが、公のレベルでは危険極まりなく、世界の人々はそのことに早くきづかなければならない・・・。本作を撮ったダグ・リーマン監督もそのことを言いたかったのかもなんて思ったりしました。

 

まあなんといっても、空や飛行機やかっこいいトムクルーズが好きな人はぜひにおすすめの作品でした。