15時17分、パリ行き

本作をやっと寒さが緩み、春の到来を感じられる夜にT-Joy東広島にて鑑賞してきました。

 

御年87才になったクリント・イーストウッド御大の最新作です。グラントリノ(素晴らしい傑作でしたね)以降はもうフィクション(創作話)など撮っている暇はない、自分に残された時間はすべてアメリカ人が実際に体験し関わったTrue Storyだけを描きたいんだ・・・と監督が呟いているように妄想してしまうほど、近年は徹底的にアメリカ人の実際の生き様を描く監督。

 

本作ももちろんその潮流に逆らうものではなく、実際にフランスで発生した、一人の中東人による列車テロに偶然居合わせた三人のアメリカの若者が勇敢にもテロリストに立ち向かい、予想される悲惨な被害を未然に防いだという実話を詳細に描いた作品です。

 

特筆すべきは、三人の若者はもちろん、当日の乗客も実際の事件の当事者が映画のなかで、再び再現フィルムのように演じていることです。(これで犯人も同一人物ならおもしろかったでしょうが、さすがに犯人はまだ牢屋のなかです。)

 

本作においても、イーストウッドが近年こだわる、世界のなかで悩み活躍するアメリカ人が描かれています。いろいろな挫折を経て、偶然のように集まり、束の間悪ふざけをしながらヨーロッパ旅行をしていた、どこにでもいそうな典型的なアメリカの若者が、勇敢にも異郷の地で素晴らしい人命救助を行い、地元の英雄になったという実在した物語。

 

観る者としては、ほぼ物語の顛末が見えており、意外性もなくやや退屈なぐらいあっけなく終幕を迎えた作品でしたが、イーストウッド監督がアメリカの若者に対して、「君たちはいつだってこの若者たちのように世界に貢献できるんだよ」と語りかけているような印象を持ちました。

 

かつては世界に君臨する軍隊を持ち、現代のローマ帝国のように振る舞い、「世界の警察官」とも称されたアメリカですが、最近はややかつての自信も失い、自閉的になりつつあり、オバマ政権からトランプ政権にかけて、その役割を自ら降りてしまいました。以後世界は、一見すると混沌に陥っているように見えます。

 

そうした世界のなかで、監督は作品を通して「まだまだアメリカには世界のために何かをやれる可能性があるんだよ、自信を取り戻そう、アメリカの同志よ!」と励ましているではないだろうか?・・・というような、またまたいつものたくましい妄想を抱きながら、帰路についたわたしです。

 

暗闇のなか車のステアリングを握りしめながら、監督のアメリカを表現する映画の旅はいったいどこにたどり着くのだろう?という不安と興味とともに、彼が走り続ける限り、自分もその辿りつく終着点を観るべく、最後まで付き合っていくぞという気持ちを新たに噛みしめた作品になりました。