人間失格

本作を10月も押し迫り、秋も深まりつつある月曜の夜にT-Joy東広島にて修行してきました。あの蜷川幸雄舞台監督の娘さんで、写真家という面も持ち色彩の表現に独特のこだわりと才を見せる蜷川実花監督作品です。

 

本作は「人間失格」という小説原作の映画化ではなく、人間失格を描くに至った太宰治自身の生と死の世界を切なく美しく表現した映画です。

 

破天荒でふしだらな生活もあり、文壇から疎んじられながらも、ぎりぎりの狭間でヒット作を連発していながら、三人の子供を持ちながら、愛人とまたまた子供まで作り、それでいながら、そこからまたヒット作「斜陽」を生み出し、ついには結核まで患い、正妻からの叱咤激励&罵倒をまた「人間失格」という作品に昇華させていった時期の彼を鮮やかな色彩で彩りながら、堂々と表現しています。

 

本作も、愛と孤独、虚構と実像、生への執着と死への憧憬という相反する引き裂かれた二つの極を行ったり来たりしながら、それらが作品に昇華していくスパークするようなパワーを感じさせる時期の太宰の人生の一部が活写されています。しかし実は一方で、太宰が主人公と思わせて、太宰を翻弄し生のエネルギー、芸術のパワーを注いでいるのは3人の美しく才気煥発な女性であり、彼女らから見ると、太宰はこの世に素晴らしい文学を生み出すための単なる触媒のようであり、彼女らのほとばしるパワーとエネルギーの存在こそが、この映画の主要なテーマであり、監督の表現したかった主題のような気がしました。

 

そんなこんなで、本作はその映像美も含めて久々文句なしに痛快な邦画を観させていただいたような気がしました。大画面で観れてご馳走様でした・・・という感じを観終わったあとに自然に頭に浮かびました。蜷川監督の次回作にも期待です。

 

P.S.こうした世界にやや相似した生活を送る友人を実は知っています。残念ながら彼は太宰のような素晴らしい作品を公的には生み出していませんので、是非とも太宰まではいかなくとも素晴らしい芸術にその思いを昇華してほしいものです(笑)。