花束のような恋をした

本作を2月に入った月曜の夜に体験してきました。テレビドラマの傑作「カルテット」(テレビドラマを普段見ることのないわたしも偶然人から勧められ見させてもらいました)の土井裕泰監督と脚本家の坂元裕さんのタッグによる恋愛映画です。

 

大学生時代のある夜、偶然終電に同時に乗り遅れたことから知り合ってお酒でも飲みながら話してみたら、好みや考え方、価値観が驚くほど一致して、必然的に恋に落ち、多摩川を見下ろす古いお洒落なマンションでの同棲生活に突入するふたり。

その後、大学を卒業したものの、ともに過ごす時間を大切にするため、定職につかずフリーター的生活を実行したふたり。

しかし、世間体を重んずる親や周囲からの圧力もあり、ともに寄り添う生活をいつまでも末永く続けるために、あえてお互い定職に就くことを選択したふたり。

その後の帰結として、就職を機に互いに仕事の多忙さに絡まれていくなかで、互いにすれ違う時間が多くなり、まだまだ愛し理解しあいながら、それゆえに自分たちの立ち位置を十分に了解し、別れていくふたりを時系列に描くという物語です。

 

偶然の出会いから別れまでの5年間の軌跡を時系列に沿いながら淡々とどちらかと言えば穏やかな空気感で描いた作品なのですが、そのときどきのお互いのセリフや態度の変遷からふたりのこころ、興味の方向や生活スタイル、人生の行方が微妙にずれていく様や心の遷り変わりを落ち着いた筆致で一筆書きのように描かれています。

 

また本作は隠し味として、ふたりの好きなサブカルチャーが劇中にふんだんに登場します。「押井守」(本人が出演していたのもちょっとしたサプライズ)をはじめとして、かなり具体的にマニアックに提示されており、これがまたリアリティを高めており、わたしのようなものでも、サブカルやこれらの若き日に出会う記号を通して、人生の若き日の一時期にこのふたりの関係と相似形のような関係を持った覚えがあり、若き日のひとつの典型的心象風景として、本作は出色の出来だと思いました。

 

ふたりで訪れた老夫婦が営む手作りパン屋さん、疲れ果てながら勉強したり語り合ったりした深夜のファミレス、便利が悪いながらも目の前には公園のような河川敷をのぞめる絶景のベランダを持つマンション・・・。どれもいつかどこかで自分も似たような体験をした温かさ、懐かしさの感触がありました。

 

観ていて、なんだか訳もなくほろりと涙が落ちてくるような、こころの奥にしまった倉庫のドアをノックしてくれた本作は、こころにそっとしまっておく大事な一品となりました。