キャラクター

予告編が血だらけの死体が大画面に映し出され不気味であり、残酷な殺戮の天使が登場するようなストーリを想像させ、修行するかどうか迷っていた本作。それでも躊躇しながら、梅雨も後半に差し掛かったじめじめした夜にわが街の映画館T-Joy東広島にて鑑賞してきました。

 

怖そうな作品という一方で、いま役者として油が乗り切っている小栗旬、メキメキ実力をつけ成長著しい菅田将暉、そして映画初出演のsekai no owariのFukaseが共演するという魅力もあり、不安を感じながらも引き寄せられるように映画館へと足を運びました。

 

物語は菅田くん演じる、画力は一流であるものの、人の好さもあり性格的な弱さから、読者を引き込む強烈なキャラクターの登場する物語が作れない・・という山城。そんなアシスタント生活ばかりの彼が、ある日偶然に殺人事件の現場に遭遇し、犯人の顔を目撃したことを機に、その犯人をモデルに殺人鬼を主人公にした漫画を描いたところ、そのキャラクターが読者のこころを鷲づかみにし、ついに大ブレイクし人気作家、そして億万長者となり、長年心配をかけてきた恋人とも結婚し、超高層マンションのメゾネットに仕事場兼住居を構えるという生活を実現するものの、Fukase演じる本物の殺人鬼・両角がその漫画に気づき、漫画で描かれた残酷な殺人事件を再現しながら、山城に徐々に近づいてきて、最後に虚構と現実の一線を越えて、ついにコンタクトを果たした結果に待つものは・・・??というハラハラドキドキの痛快な物語でした。

 

このまま終わってしまうと、単なる恐怖サスペンスホラーものなのですが、なぜ両角のような殺人鬼が生まれたのか?・・のエピソードがしっかりラストにかけて挿入されており、最近流行りの伏線回収?もできており、圧倒的におもしろいながら、オチもしっかりつけているという力技の作品でした。心配していた殺人シーンの残酷さは、事件後の遺体という形でほぼすべてぼかされており、凄惨さよりも物語の面白さに目が行くようになっており、ここら辺は永井監督のうまさを感じました。

 

原作はあの「20世紀少年」「マスターキートン」「モンスター」を手掛けた長崎尚志さんであり、言われてみれば、視聴後のこころに繰り返す残響にはデ・ジャブ感があり、それはあの名作「モンスター」に近いものがありました。

 

おすすめの本作ですが、実は一番印象に残ったのは、山城が成功した後に、住んだ天井まで伸びる高い壁となっている本棚がそびえるモノトーンのスタイリッシュなアトリエです。これは、アートのように赤と黒と黄色の殺人現場の写真が世界の混沌を表現するように壁に貼ってある天井の低い両角の住処であるアパートときれいに対称となっており、永井監督の密やかな美学を感じました。

 

そして最後にセカオワのFukaseくんについて一言。わたしもその音楽については、名曲「ドラゴンナイト」のころからフォローさせてもらい、いつも楽しませてもらっています。そんな彼はかつては「映画には絶対に出ない」とインタビューで応えていましたものの、プロデューサーから粘り強く口説かれ、出演することになったそうですが、出る限りはとことんまでやりつくすという彼自身の音楽に対する姿勢と共通する美学を感じさせてくれ、いつかまた映画で再会したいと思わされる出来であり、才能はあるところには無尽蔵にあるものだ・・と妙に納得しながら、夜の闇の中帰路に着きました。