吟ずる者たち

冬の足音が聞こえてきつつある秋のきりりとした冷え込みの夜に、 わが地元である東広島の酒蔵を舞台とする本作を、T-Joy東広島にて鑑賞してきました。「恋のしずく」に続く、広島&お酒の物語であり、今回は全国に先駆けて広島県での先行上映とのことで東広島市民必見の作品です。

 

東広島市安芸津町出身で、軟水による吟醸酒の醸造を初めて成功させた明治時代の偉人、三浦仙三郎のお酒にかける愛と情熱の人生を基に、現代の酒蔵に携わる人々の日本酒への想いや家族をめぐる物語と重ね合わせた物語です。

 

地元安芸津港の鳥観図(わたしが大好きな桜の名所・正福寺山も見えていました)からの導入から安芸津の酒蔵のなかで父と娘の再会で終わるエンディングまで、西条酒祭りなどの光景も加えて目になじんだシーンが多く登場しており、東広島の方が観ればなんだか面映ゆい気分になること請け合いです。

 

地元東広島では知らぬもののいない精米会社の「サタケ」の創始者も登場します。また油谷監督も、脚本の仁瀬さんも広島の竹原市出身、三浦仙三郎の妻役も広島市出身の戸田菜穂さんであり、キャストや構成からして地元広島を古も今も支えている人々の想いが詰まった作品になっています。

 

そして今回のテーマは「恋のしずく」の日本酒の再発見に寄り添う恋心ではなく、お酒を中心にしてその想いや歴史を受け継いでいく人の魂や家族の絆となっており、より普遍的な物語となっています。仙三郎がいつも心がけた「百試千改」という戒めも、ついつい日常のなかで忘れがちな信念と行動、努力の尊さを思い出させてくれ、わたしも日常のなかで、そうした大切なものを見失わずに生きていかねば・・という想いにかられました。

 

本作は広島でまず先行上映となり、全国では来年以降順次上映ということだそうですが、素晴らしいテーマを内包している本作が広島だけでなく、日本全体に広がっていってくれればいいのに・・・と仮定法的願望を持ちながら、ほんわかした気持ちをお土産に映画館を後にしました。