キリエのうた

忙しさにかまけていたため、本作を終映間近の一日一回上映となっていた11月初頭になんとか地元のT-Joy東広島にて鑑賞してきました。 ややマニアックな本作を広島市内に行かなくても観れてとても感謝です。

 

言わずもがなの待望の岩井俊二監督の新作です。これまでのブログでもずいぶんと書いてきましたが、わたしは初期の「undo」の頃からの岩井ファン(チルドレン?)であり、30年以上の長き年月にわたって、映画におけるマジック岩井ワールドに翻弄されながら人生の途上で少なからず影響を受けながら成長してきた感覚をもっております。おそらくそんな感覚を持つファンは日本中そこかしこにおり、そういう人たちとは直接的コンタクトはなくとも想いというフィルターを通じて日本中でワイヤレスに繋がっていると常日頃感じております。

 

ちなみに最近の岩井監督はアニメに挑戦したり、過去の作品へのアンサー映画(「ラブレター」に対する「ラストレター」)を作ったりと悠々自適に作品を発表しておられますが、本作は久々の本格新作であり、かつ故郷を襲った東日本大震災に対する監督の想い(監督はあの震災復興のテーマソングと言える唄「花は咲く」と作詞者でもあります)が詰まった作品という前情報もあり、遅まきながら勇躍映画館に駆け付けました。

 

映画を観終わって文句なく期待通りの作品でした。さまざまな要素がありすぎてまだ自分のなかでは消化不良の部分が多いのですが、かつての名作「リリーシュシュのすべて」(岩井監督の最高傑作ではないでしょうか)の2023年度版のようなにおいを感じました。もちろん主人公は14歳ではなくもう大人なのですが、主人公や登場人物らの魂は10代のような無垢さであり、まだ人格が固まっていないさまざまな魂たちが織りなす人間&音楽ドラマです。そして彼らの魂に共有され強く刻み込まれている東日本大震災という傷痕。そんな傷を隠しながら東京でナイーブに生きる人もいれば、しぶとく狡猾に生きる人もいたりして、そんな魂たちの再会がスクリーンいっぱいに素敵な音楽をバックに美しく表現されていました。

 

それら明暗を彩る心象風景が画面いっぱいに広がりながら、音楽(岩井監督作品はいつもですが、このうたと音楽がまた良いんです。今回も小林武史さんによるものです)というプリズム(光の交錯)を通して世界に自分の想いを伝えていこうとする意図。才能に群がる訳知り顔の大人たち。原点回帰の路上ライブ。自由な表現をするにはあまりに偏狭で厳格な法の縛り。形を変えつつある世界のなかでの音楽を通した人の営み。日常に潜みながら渦巻いている欲望。高校時代からの友との絆。そんな人の営みを軽々と流し去る自然の暴力的ともいえる無慈悲・・・。

 

思いつくままに本作のパラメーターを綴ってみましたが、もし興味を持たれたら、ここから先はぜひ実体験してみてください。素晴らしい映画体験になること必定と思われます。

 

P.S.本作を観て、わたしもまた映画館で「PiCNiC」「スワロウテイル」「リリーシュシュ」「四月物語」といった岩井監督による名作群をたばで体験したいと思いました。かつて開催されたと記憶しておりますが、再びサロンシネマのフィルムマラソンにて岩井監督ナイトを開催してくれましたら、馳せ参じようと思っています。よろしくお願いいたします。